【Mario Side】
あの大騒ぎから、どれだけ時間が経ったんだろう。
なりゆきでついて来ることになってしまったルイージを迎えに、オレは格納庫に来ていた。
「大丈夫か?」
「ううっ、何でこんなことにぃ……」
うわー、すっげえいじけてる。そんなについて来たくなかったのか? それはそれで傷つくんだが……。まあオレとしては、血のつながった双子の弟であるルイージをあまり危険な目には逢わせたくなかったわけで、結構複雑な気分なんだよなあ。
とりあえず、仮にもスーパースターの弟が悪党の仲間入りなんて冗談じゃないし、本人も絶対嫌だろうし、クッパは後で説得しておこう。そう思った直後、天井に取り付けたスピーカーがぶるぶると震えだした。
『え~、艦内にいるマリオと……緑のヒゲ!』
スピーカーから聞こえてきたのは、クッパの手下が流す艦内放送だった。
『もうすぐマメーリアに到着だ! 荷物を整理したら、速やかにデッキまで来るように!』
「緑のヒゲって……ボクのこと?」
がっくりとうなだれている。うん、オレも落ち込みたい気分だなあ、いくらあんまり冒険に出ていないとはいえ、名前覚えられていないほどルイージの影が薄かったなんてさ。これも後でクッパによく念を押しておこう。
「ほら、いつまでもいじけてねーで、行くぞー」
「ううっ」
ぐすんと鼻をすすり、背中を丸めて体育座りしていたルイージが立ち上がる。オレもそれに続いた。
クッパの手下の仕事を手伝ったりしながら、デッキへ上がる階段までたどり着いたオレたち。
まず最初に目に飛び込んできたのは、通路を占領しているでっかいタルだった。
「誰だ? こんなところに荷物を置いたのは! これじゃあデッキに出られないぞ!」
手下のノコノコが困ってる。うーん、こんなにでっかいの、オレたちのジャンプでもとびこせそうにないし。壊したらクッパにすっげー怒られそうな気がする。とは言え、オレたちもデッキに行かなきゃいけないしなあ。
二人で頭をひねって考えていると、ふと。視線の端に、ブロックがあるのを見つけた。
好奇心に導かれ、オレは軽くジャンプしてブロックを叩いてみる。すると、ブロックと連動して、クレーンがこっちに向かって動き出した! おお、ひょっとしてこれなら行けるか? わくわくして、オレたちはクレーンの動きを見守った。
すると、クレーンがルイージの頭上で、いきなりぴたっと止まってしまった。
「あれ?」
「おかしいな、故障か?」
もう一度ブロックを叩いてみようかと思った、その時!
クレーンが突然動き出し、ルイージの頭にがっしりとかみついた! って、生き物とは違うが。
「おわ!?」
「うわ、わあーっ!!」
ばたばた暴れるルイージをものともせず、クレーンはそのままデッキのほうに行ってしまった。あっちゃー……。
「あ~あ、荷物と間違えて連れてっちゃったみたいだな。せっかくだから、監視係にでもするか……」
せっかくだからって何だよオイ。
デッキに上って来てすぐ、オレは弟の件についてクッパの説得を試みた。
「なるほど、我輩の勘違いだったか。仕方ない、緑のヒゲは一日入団ということにでもしておくか……」
「いや、だから『緑のヒゲ』じゃないっての」
「やかましい! 類似だろうが緑のヒゲだろうが同じことだ」
失敬な。オレの弟に向かってなんつー事を。
文句の一つでも言ってやろうかと口を開きかけた時、いきなりオレたちの間にノコノコが割り込んできた。
「クッパ様! もうすぐ、キノコ王国とマメーリア王国の国境付近を通過致します!」
「うむ、御苦労。下がっていいぞ」
クッパの言葉に応えるように、びしっと敬礼を一つして、ノコノコは足早にその場を立ち去った。
うーむ……ここだけ見ると、こいつが手下たちにどれだけ信頼されてるかってのが分かるなあ。ちょっと複雑だが。
と、その時。
「う、うわああ!?」
オレたちの頭上で、クレーンにぶら下がって双眼鏡をのぞいていたルイージが、突然騒ぎだしたんだ。
ひどく慌ててる。なんだなんだ?
「ルイージ?」
「むむむ? 何をそんなに騒いでいるのだ」
「む、向こうから何か変なものがっ」
ルイージが言い終わるより速く。
どこからともなく緑色の球が飛んで来て、それがカメジェットに直撃した!
「うわっ!」
その衝撃でクッパが転んで、ルイージがクレーンから落ちる。……あ、クッパ踏まれた。
「な、なんだ! 何が起こったのだ!?」
「分からないよ、突然……」
「……むうっ!!」
困惑するオレたちを前に、クッパが何かに気がついた! デッキの突端のほうを睨みつけている。何か見つけたのか?
……ん?
空の向こうから、何かが飛んでくる!
気味の悪い緑の顔をした二人組。片方は、空飛ぶ椅子に乗った婆さん。もう片方は、妙なヘルメットをかぶったメガネ男。
……雰囲気で、分かる。
ふたりとも、クッパなんかよりもっとずっとタチの悪い、すっっっげえ悪い奴!
そいつはオレたちの目の前で止まると、「ゲヒャヒャヒャ!!」って、耳障りな嫌な声で笑って、言ったんだ。
「このゲラゲモーナ様に追いつこうなんて、100000000年早いんじゃ!!」
なんだって?
その口ぶりからすると……まさか!!
「お前が、ピーチ姫の声を盗んだ犯人だな!」
「ゲヒャヒャヒャ! その通り!!」
「「なっ!?」」
クッパの言葉に、悪びれることなく堂々とそいつは言った。……やっぱり!!
こいつがこの騒ぎを起こした張本人。オレたちのお守りするべき姫をあんな不自由な目にあわせて……くそっ、許せないっ!!
怒りのあまり、言い返すのも忘れてただ唸っているオレたちに向かって、ゲラゲモーナは勝ち誇ったようにげらげらと笑った。
「さっそくマメーリアに帰って次の作戦を開始するんじゃ! お前たちの相手をしている暇はなーいっ!」
そう一気にまくしたてると、ゲラゲモーナはくるりと後ろを振り返って。
「ゲラコビッツ! やっておしまい!!」
彼女の後ろで、何も言わずにただニヤニヤしていたメガネにそう命じ、夜空の向こうに飛び去ってしまった!
「ンガァ~! 待て~っ!!」
クッパが吼えるも、ゲラゲモーナの姿はもうそこにはなく。
代わりに、その場に残されたメガネ男だけが、ゲラゲモーナそっくりの下品な声で高笑いした。
「ワレはゲラゲモーナ様の一番弟子、ゲラコビッツであーるる! ピーチ姫の声を盗まれたぐらいで追いかけてくるなんて、暇るるね!」
「『ぐらい』だと!? ふざけんな!!」
「……っ」
こんなの挑発だってぐらい、オレもルイージも分かってる。でも怒りがおさまらない!
事件が起きてすぐ、犯人に思いっきりバカにされるなんて!
「そんなに怒らなくても、これからもっと恐ろしい事が起こるるよ!」
「恐ろしい事? ……『計画』とかなんとか言ってたし。姫の声なんか盗んで何をしようとしてるんだっ!!」
「ゲヒャヒャヒャ、そんなの教えないるるよ! とりあえず、お前たちはここで消えてもらうるるよ!!」
ルイージの言葉に、のらりくらりとそう答えたメガネ男……ゲラコビッツのかぶっていた、掃除機をくっつけたようなみょうちくりんなヘルメット。それが、彼の言葉と共にいきなり動き出した。
掃除機のノズル部分から飛びだしたのは、さっきカメジェットにぶち当たった緑の球!
オレたちが構えるより早く、それは俺たちの両脇をすり抜けて、クッパを吹っ飛ばした!
「ぐわああっ!!」
「「クッパ!?」」
慌ててオレたちはクッパに駆け寄った。……なんてひどい傷。たった一発でこれほどの威力があるなんて! くそ、よくも!
一矢報いてやろうと振り返ったが……いない。どこ行った!?
「ゲヒャヒャヒャ!!」
いきなり背後から響いたゲラコビッツの笑い声。いつの間に後ろに回り込んでたのか!?
「次はお前たちの番であーるる!!」
まだ国境すら越えてないのに、こんなところで負けてたまるか!
さっさと片付けるっ!!
正直言うと……オレたちは苦戦していた。
あいつの攻撃中の癖を見抜いたクッパのアドバイスも受けたが……それでも、どうしても決定打は与えられない。
どうにかヘルメットを踏み壊しても。あいつが「いらっしゃ~い!」と唱えるたびに、すぐにどこからともなく新しいヘルメットがあらわれる!
それでも諦めずに、オレたちは何度もあいつに攻撃を加えていた。
と、その時。またしても、ゲラコビッツが「ゲヒャヒャヒャ!!」と笑いだした。
「な、何がおかしいんだよっ!」
「もう充分なのであーるる! こんなところで道草食ってる暇はないのであーるる!」
「えっ!? そ、それって……」
ルイージが言い終わるより早く、ゲラコビッツは空高く飛びあがって、そして……
「一気に片付けるーるるるっ!!」
甲高い叫び声とともに、大量の攻撃弾を船にばらまいた!
「「うわあああっ!!」」
慌ててオレたちは甲板の上を逃げ惑う。直撃は免れたが……やばいぞ、このままじゃ!
船の中からも、手下たちの悲鳴が次々と聞こえてくる。
「ゲヒャヒャヒャ!!」
そんなオレたちの姿を面白がるみたいに、最後に笑い声を一つ残して。
ゲラコビッツはゲラゲモーナを追いかけて、夜空の向こうに飛び去って行ってしまったんだ。
「あ、くそっ、待ちやがれこの野郎!! 声を返せー!!」
「駄目だよ兄さん、間に合わない! ……って、うわー!!」
爆発がどんどん激しくなる。
辺りが真っ白になって、オレたちは星くずのまたたく夜空に投げ出されたんだ……。