大魔王・ホッスィー

「う、うぅ~ん」
 気がつくと、僕は地面の上に投げ出されていた。夜空のような紫色の地面の上で、色とりどりの星型の石がぴかぴか光って、とっても幻想的な場所。ここが、キノコ王国とマメーリア王国の国境にある平原、星くずヶ原……。
 近くには、キノコ型のランプがついた橋と、崖にへだたれた緑色の大きな建物。建物の反対側に見えるのは、緑色で顔のような形をしたランプの橋。ちょうどここらが国境のすぐそばみたいだね。
 あ、そうだ! 兄さんやクッパは!?
 ボクは急いで起き上って、あたりをきょろきょろと見まわしながら、叫んだ。
「兄さん! クッパー!! ……って、ああっ!」
 地面に埋まってる、見なれたオーバーオールと赤いシャツ……兄さんだっ! ボクは慌てて兄さんの傍に駆け寄った。
「に、兄さん大丈夫!?」
「……」
 返事はなかった。……よく考えたら当たり前だけど。
「今出してあげるからね! せーの、ん~っ」
 兄さんの足を掴んで、力を込めて思いっきり引っ張る! 数回その動作を繰り返すと、すっぽりと兄さんの体が地面からひっこ抜けた! その勢いで、ボクは仰向けに倒れこんでしまった。
 あれ。兄さんがいない?
「あらよっと!」
「むぎゅっ」
「ん? 今ルイージに助けられたような……わ、地面が揺れてる」
 思いっきり踏んずけといて、ひどいや兄さん……。
 兄さんを弾き飛ばすように、ボクはどうにか自分の力で地中から飛び出した。
「うわ! ……なんだ、そこにいたのか」
「いたのかって……まあお互い無事だからいいけどね」
「あれ、クッパはいないのか?」
「うん、ボクが見たのは兄さんだけ……あ!」
 兄さんにそう聞かれて、もう一度確認しようと周囲を見回したボクの目に飛び込んできたのは、倒れている数人のクッパの手下たちだった。ボクたちは慌てて駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「か、カメジェットの……ローンの返済が、まだ、なの、に……」
 全身ボロボロになりながら、息も絶え絶えに、喉から絞り出すようにそう言うノコノコ。ローンって……どんだけコインつぎ込んで作ったんだ、って言うのが分かるなあ。ゲラコビッツのせいで粉々に吹っ飛んじゃったし、これはお気の毒としか言えないなあ……。
 ……って、クッパ軍団の事情はどうでもよくてっ。
「クッパは? 誰か見なかった?」
「……く、クッパ様は国境の向こう側へ落っこちてしまわれた……」
「クッパ様を見つけ……お……助け、しろ……」
 ボクたちにそう教えてくれた他のノコノコたちも、全身傷だらけでなんだかとっても苦しそうだった。だ、大丈夫かな?
「国境の向こう側……分かったよ。きっとボクたちが探し出すから」
「……オレたちが助けなくたって、あいつなら大丈夫だろー。あいつ、ゴキブリ並みの生命力なんだから。一応探しといてやるけどさ」
 兄さん、それってクッパのことすっごく信頼とか心配してるように聞こえるよ……。
「まあ……そうだけど。でも、クッパはともかくこの人たちほっといて大丈夫?」
「さっきの理屈で言えば、クッパの手下であるこいつらだって平気だって。見た感じ、命にかかわるような大けがでもないしさ。後はこいつらで何とかするさ」
「……そう、だね」
 兄さんは数多くの副業のひとつで、お医者さんをやってる。その兄さんがそんな風に言うんだから……大丈夫、なのかな? 本職は配管工なんだけど、いっつもピーチ姫のためにあちこち動いてるせいで、忘れられがちなんだよねえ。
「とりあえず……まずは国境を越えないと」
「そうだな」
 こんなところで話し込んでいてもしょうがない。ひとまず、ボクたちは近くの建物へ向かうことにした。

 入国手続きは、縄跳びみたいなゲーム感覚のものだった。でもボクたちはジャンプするのが仕事みたいなもの。難なくクリア! 地図までもらっちゃったし、言うことなし。ピーチ姫を助けるための準備は万全! でも、その前にまずはクッパを探さなきゃ。
 それにしても、ここは色とりどりの星くずがきらきら光って、とってもきれいな場所だなあ。兄さんは、他の場所でもこんな光景を見ていたのだろうか?
「……ん、おい! あれ見ろよ」
 突然、先頭を歩いていた兄さんが声を上げた。何だろう?
「え、何? ……あっ」
 近くの高台に置いてあったのは、クッパの城とかで見るよりちょっぴりサイズが小さい大砲。それに……クッパがはまってる!? うわ、大変だ! 慌ててボクたちは大砲の傍に駆け寄った。
「それ!」
 兄さんがジャンプして、大砲をぐるりとひっくり返す。大砲の口から、いつも通りの怖い顔がひょっこりとのぞいていた。やっぱりクッパだ!
「だ……大丈夫?」
「おおっ! マリオ! いいところに来たぞ! は、早く我輩をここから出すのだ!」
「んなこと言ったってなあ……」
 兄さんが困ってる。ボクも困る。クッパみたいな巨体を、体にがっちりフィットしてる大砲から引っ張り出すなんて力、ボクにも兄さんにもないしなあ……。さすがに点火するわけにはいかないし。
 二人して頭をひねっていた、その時。

「ケケケケケケケ!!」

 甲高い笑い声と共に、突然何かが空から降ってきた!! て、敵!?
 身構えたボクたちの前でケラケラ笑っているのは、クッパと同じくらいの巨体をした、緑の体に赤いトサカのなんだか妙な生き物だった。
 ひとしきり笑うと、妙な生き物は、馬鹿にするような口調で言った。
「大魔王クッパともあろう者が大砲の中に落っこちるなんて、なんてザマだい!!」
「き、貴様何者だぁ!?」
「ケケケケケケケ!! ワシはこの星くずヶ原の大魔王、ホッスィー様だ!」
 クッパ以外にも大魔王なんていたんだあ……見た目は結構弱そうだけど。
「お前の噂は聞いているが、大したことないではないか! ケケケケケケケ!!」
 大砲にはまったその姿を見ながら、おかしそうに笑ってる。クッパのほうは……カンカンに怒ってる。
「ケケケケケ! もしそこから出して欲しかったら、ワシにコインを渡すんだな! コインを全部渡せば自由になれるゾ! この恥ずかしい出来事も、秘密にしておいてやるゾ!」
 うわ、交換条件にコインを出してくるなんて! がめつい奴だなあ。
「……く、悔しいぞ 悔しいぞ!」
「大魔王のくせに泣くなよ、もー」
 あーあ、悔し泣きしちゃったよ。兄さんが呆れてる。
 コインかあ……具体的にいくらぐらい必要なんだろう。場合によっては、キノコ王国に引き返さなきゃダメかな?
 と、思った時。兄さんが、懐からずっしりしたコイン袋をとりだした。え、それって……!
「なあ、これ全部じゃ駄目か?」
「なに?」
 ホッスィーが目を丸くしてる。ボクはもっとびっくりしたけど!
「ええっ! 兄さん、それキノじいから貰った旅費!!」
「大丈夫大丈夫、またすぐ溜まるって」
 もー、また考えなしに行動するんだから、兄さんってば。でも、困った人を見て放っておけないのは仕方ないよね。ボクもそうだもの。
 すると、今まで食い入るように袋の中身を見ていたホッスィーが、突然笑い出したんだ。い、嫌な予感……。
「ケケケケケケケケ! こりゃ、キノコ王国のキノココインじゃねえか! ここはマメーリア王国だぜ! 外国のコインは両替しないとな!」
「え。マジで?」
 兄さんが固まってる。
 懐から電卓を取り出して、ホッスィーはなんだか楽しそうに計算を始めた。
「え~本日の
為替かわせレートでは、キノココイン100枚はマメーリアコイン10枚ナリ~」
「ええっ!?」
「たった10分の一かよ!?」
「たったコイン10枚なら、この秘密をうっかりバラしちゃうかもナリ~。ケケケ」
 え~、クッパの秘密のほうが大事なのかなあ。ボクたちにとっては、他にも色々大事なことがある。このまま足止めされちゃ、ゲラゲモーナたちがまた動き出すかもしれない。それに、今頃キノコ王国はどうなってるんだろう……。
 ボクとしてはコイン10枚で押し切りたいところなんだけど、ボクたちのすぐ隣で涙ちょちょ切れてるクッパを見てると、このまま知らんぷりってのは出来ないよねえ。そしてそう思ってるのは兄さんも同じみたいで、クッパとホッスィーを代わる代わる見ながら「うーむ」って唸っていた。
 そんなボクたちの考えを、そのまんま見透かしたみたいに。
「……ということで、マメーリアコインをあと100枚!! この星くずヶ原で集めて来たら、クッパを助けてやる!」
 そう言って、星くずヶ原の奥地へ繋がる橋を出現させた。
「……仕方ない。急ぐぞ、ルイージ! モンスターどもから、片っぱしからぶんどる!」
「う、うん。ブロックに入ってるのも忘れないでね……」
 急いで、ボクたちは今来た道を引き返したんだ……。

 コイン集めは、驚くほど順調に進んだ。
 星くずヶ原に住む不思議な二人組・星かげ兄弟から、とっても便利な技を教えてくれたんだ! これで、この地方の旅もぐっと楽になるよね!
 またずっしり重くなったコイン袋を抱えて、ボクたちはホッスィーのもとに戻って来た。
「これでいいか?」 
「ケケケケ? ふふーん、やるじゃねえか! それじゃ、100枚と言わずコイン全部貰うぜ!」
「は、早くここから出すのだ~っ」
 よっぽど待ちくたびれたらしい。またクッパが泣き出した。兄さんの手前、大魔王としてのプライド捨てちゃ色々まずいんじゃないかなあ……かっこ悪い。
 そんなクッパの叫びを聞いて。ホッスィーは、にやけた目玉をまん丸くして、こう言ってのけたんだ。
「え? そこから出す? お前を助ける? なんのことだい?」
「「んな……っ」」
 うわ、そんな堂々としらばっくれるなんて! 最初から、クッパをダシにボクたちにコイン集めさせるつもりだったんだ! なんてずる賢い奴だろう。ボクも兄さんもあいた口がふさがらなかった。
 だらしなく垂れ下がっていたクッパの目が、一気に釣り上った。
「騙しやがったなぁ~!!」
「ケケケケケケ!!」
 おかしそうにいつもの調子でげらげら笑うと、ホッスィーはボクたちの目の前まで飛んできた。体がさっきより膨らんでるように見える。それに……なんだか殺気みたいなものも感じる! 戦うのか!?
「ここはもうキノコ王国じゃねえんだ! よそ者はとっとと消えな!!」
「……そうはいかないよ。ボクたちは、この国でやらなきゃいけないことがあるんだ!」
「おう、そういうこった! そこどきな、この守銭奴大魔王!」
 戦いは始まった。
 まだ入国したばっかりだって言うのに、こんなところで道草食ってる場合じゃない。
 早く片付けて、ゲラゲモーナを追いかけなくちゃね!!

 自ら「大魔王」と名乗るだけあって、ホッスィーはなかなかの強敵だった。もうちょっと戦いが長引いていたら危なかったかも。
 でも! こっちだってちょっとだけど強くなってる!
 星かげ兄弟に教わった必殺技が、こっちにはあるんだからね!
「行くぜ、ルイージ!」
「うん! ……ブラザーアタック!!」
「「スプラッシュ・ブロス!!」」
 ボクと兄さん、二人分の体重を乗せた体当たり! ホッスィーの体が軽々吹っ飛んだ。やったかな!?
 と、思ったその時。
「さっきからゴチャゴチャとうるさいであります!!」
 うわ、いきなり地面の下から声がした!? そういえば大砲の傍に、星くずヶ原でよく見る星型のハッチがあったよね?
 二人で顔を見合わせていると、思ったとおり。ハッチの蓋が開いて、星かげ兄弟の緑のほう、星かげ軍曹が現れた。歯ぎしりしてるし、足をタンタンやってるし……ものすっごく怒ってる?
 怒り心頭って感じの星かげ軍曹は、クッパがはまっている大砲を横倒しにして、手に持っていた葉巻を使って……大砲の導火線に点火した!?
「ヒエ~~~~~~~っ!!」
「うわ、ちょ、やべ! おい待てって!!」
「ちょっと、ほほほ、星かげ軍曹!?」
 ボクたちの叫びはむなしく、星かげ軍曹はさっさとハッチの下に戻ってしまった。……うわ、この導火線の短さじゃ、もう!
「ま、マリオ~!! 緑のヒゲ~!! ピーチ姫の声を、必ず取り戻すのだ~! 後は任せたぞ~っ!!」
 という、涙交じりの叫び声と共に。大砲から発射されたクッパは、倒れていたホッスィーを吹っ飛ばして、星くずヶ原の向こうへ飛んでってしまった。。……って、だからボクは『緑のヒゲ』じゃないってば!!
「……あちゃー。さすがのクッパでも、あれはヤバいだろ」
「ど、どうしよう。助けに行ったほうがいいのかな?」
「うーん……いや。今は先を急ぐべきだな。さっきお前も言っただろ。『この国でやらなきゃいけないことがある』ってさ」
 ……あ。
 そういえば、ホッスィーと戦う前にそう言った気がする。
「でも、だからって」
「いいんだよ。あいつもオレたちに任せてくれたんだし」
 そう……なのかな?
 でもまあ、いいか。これで、ようやく星くずヶ原を抜けられそうだしね。

 ようやく冒険がはじまるんだ!
 手掛かり、早く見つかるといいね。兄さん!

「さっきのあれ、かっこよかったぜ」
「え……へへへ。ありがとう」

 

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