「……とんだ茶番を見せてくれたな。貴様ら」
空に浮かぶ帆船の上で、4人がいるバルコニーを見下ろしながら。そう、クッパの体を借りた何者かが吐き捨てる。
マリオが、見なれた魔王のごつい顔を睨み返した。
「黒金大蛇、とかなんとか名乗ってたけど。あんた、一体何者だ」
「それを知りたいのか? もはや消えゆく運命にあるという貴様らが」
「へっ、そう簡単に消されちゃたまんねえよ」
ワルイージが負けじと言い返す。
面白い、と、大魔王の体で、黒金大蛇は意地の悪い笑みをこぼす。
「ならば、四聖獣に聞くがよい。我がわざわざ説明してやるまでもないわ」
「ああん? 逃げんのかよテメェ」
「フン、そんな安い挑発には乗らん。……緑の男よ」
「……っ」
名前では呼ばれなかったが、単語で自分の事を呼ばれたことが分かって。無意識に、ルイージはぶるりと肩を震わせた。
「お前も選ばれし『器』ならば、その役目を全うして我と戦うべきではないのか? 激情に駆られて紅朱雀の意識を『器』の中に押し込めてしまうとは、何たる愚行か」
「……ぼ、ボクは」
「我は四聖獣どもとしか戦う気はない。揃ったら、首を揃えて我が祖国へ来るがよい!」
そう高らかに宣言した時。帆船が、くるりと方向を変えて動き出した。
方角的に、そちらの方向は王国を出て、海を越えてしまう。
「ま、待て!!」
「また会おうぞ、『器』ども!!」
4人の跳躍力をもってしても、あそこまで引き離されてしまってはもう、船の上までは届かない。
高笑いと共に、帆船は豆粒のように小さくなって行ってしまった。
「……それで、だ」
ところ変わって、ここはキノコ城の客間。
キノピオに出された紅茶を囲んで、ピーチに見守られながら。4人は難しい顔をしていた。
「これからどうする?」
「そりゃあ、クッパを追いかけるに決まってんだろ」
「どうやって? どこに行ったかも分からないのに」
「四聖獣ゆかりの地ってのはねぇもんかね」
「姫、何か御存じありませんか?」
「そうですね……」
唐突にマリオにそう尋ねられて、ピーチは過去の記憶をどうにか思い出そうと、目を閉じてじっと考え込んだ。4人はただ黙って彼女の様子を見守る。
やがて、深い深いため息が、ピーチの口から洩れる。
「……ごめんなさい。私には分かりません」
「そうですか。お気になさらず」
「そう言えば、奴は『四聖獣に聞け』って言ったよな?」
思い出したように、ワリオがマリオとピーチの間に割り込んだ。
顔をしかめながらも、マリオは「ああそうだったな」と、彼の言葉に相槌を打つ。
「だが、どうやって聞く? 紅朱雀はもういるかいないか分からないのに」
「え、ええっ。ひょっとしてボク、取り返しのつかない事しちゃったのかなぁ」
「いや、まだいるだろ」
ずるずるずる、と、盛大に音を立てて紅茶をすすりながら、ワリオがいきなりのんびりと言った。
一同の視線が一気にそちらへ集中する。
「緑の光がまだ残ってる。あーっと、名前なんだっけか、姫さん?」
「翡翠白虎、ですか?」
ピーチが、バルコニーの外でぼんやりと浮かぶ緑の光にちらりと目をやりつつ、聞き返す。
「おう、そいつだ。ルイージがそいつになりゃあいい」
「……えっ」
びくりとルイージが固まる。
自分も、つい先程までの兄のようになってしまうのだろうか?
愛情のかけらもないその言葉で、誰かを傷つけるようになってしまうのだろうか?
一度でもそう考えてしまうと、とてつもなく怖くて。とても、肯定の返事を返す事など出来なかった。
と、その時。
「……大丈夫。心配すんな」
俯くルイージの肩に、マリオの手のひらがぽんっと乗せられて。
はっと顔を上げてそちらを向くと、優しいほほえみをこちらに向ける、最愛の兄の姿があった。
「お前に何かあったら、さっきのお前みたいに、オレが全力で止めてやるから」
「……兄さん」
「な?」
何でだろう。
兄さんの言葉は、いつもボクに絶対の自信と勇気をくれる。
小さいころから今まで、それはずっと変わらなかった事で、だからこそボクたちはお互い変わる必要はなかった。
そうやって兄さんが背中を押してくれるから。兄さんが、ボクにだけ助けを求めてくれるから。
こんな臆病なボクでも戦える。
お化けが出そうな所にだって、どんな怖い所にだって行ける。
何だって、出来たから。
それは、今だって……。
「……、うん。分かったよ」
意を決して、ルイージはすっくと立ち上がった。
「やってみる」
「おうおう、それでこそ我がライバルの弟だぁ」
「兄貴。いい具合に『永遠の2番手野郎』に面倒事押しつけようとしてるな?」
「何の事かな弟よ? はっはー」
「……実の兄を目の前にして随分な言い草じゃないかお前ら」
「いいんだよ、兄さん」
悪友たちの実に失礼すぎる会話を聞いて、危うく殴りかかろうとしていたマリオを、ルイージのやんわりとした言葉が押しとどめる。
「いいんだよ、『永遠の2番手』でも。ボクの1番はいつだって兄さんなんだもの」
そんなマリオが、また元気づけてくれたから、今度も自分は大丈夫。
さあ、全ては手がかりを得るために。
自分の体を、四聖獣に差し出そうではないか。
自分の目の前には、ぼんやりと淡い光を放つ緑色の力の塊。
先ほど大口をたたいてしまったものの、こうして目の前にしてみると、どうしても無意識に体が震えてしまって。
そんな往生際の悪い自分自身を、ルイージは心の中で叱咤した。
(しっかりしろ、怖がってどうする! みんながいるんだ、大丈夫に決まってるだろ!)
「ルイージ? 怖いんなら、心の準備が出来てからでも……」
「大丈夫だよ」
マリオの言葉を遮り。震えそうになる言葉を必死に抑えて、振り返らずにルイージは言う。
「大丈夫。だから、兄さんは何も心配しないで」
分かってる。
自分はいつも助けられてばかり。
だから今度くらいは、兄の手を借りなくても、自分の意志で。
どうしようもない恐怖を、振り払え!
兄が、自分の悪友が、兄の悪友が、兄の愛する姫が。それぞれの面持ちで見守る中。
「……っ!!」
一気に、光の中に手を入れた。