はじまりの朝

 あなたは、「神様になってみんなを守りたい」と思ったことはありますか?

 これは王国の英雄たちに宿り力を貸した、獣の姿をした神様たちの物語。



「降臨祭(こうりんさい)
?」
 赤い屋根の、質素な丸太小屋。
 ある晴れた日の朝、兄弟の家に訪れたキノピオに、マリオは怪訝な顔でこう聞き返した。
 そんな二人の様子を見守るように、マリオの双子の弟にあたるルイージは、二人の後ろで朝食の後片付けをしていた。
「ええ。今夜は、キノコ王国だけでなく……世界全体に満ちる『属性』を司る神様が、100年に一度大地に降りる夜なのだそうです」
「ふうん。で、その祭にオレに出てほしいって事か?」
 名前からして堅苦しそうなものだが、お祭り騒ぎはマリオの大好きなもの。何よりキノピオたちが困っているのならば放ってはおけない。快く承諾しようとしたが、そこで何故かキノピオは言葉を濁した。
「あー、ええ……まあ」
「?」
 マリオの疑惑の視線から逃げるように視線を泳がせ、ごにょごにょとキノピオは言った。
「実はマリオさんだけではなく、ルイージさんにも……」
「……えっ、ボクも?」
 普段はマリオが旅に出ている間の留守番ばかりをしているせいで、マリオの影に隠れがちなルイージだが……今日は彼の役目もあるらしい。ぱっとルイージの表情が笑顔になる。
 ところが、そこまで明かしておきながら、未だにキノピオの表情は優れなかった。
「あ……いえ。ルイージさんだけではなく、その」
「まだ何かあるのかよ」
「その……あなた達に言うべきことではないのですが」
 意を決したようにぱっと顔を上げて、二人の顔をまっすぐ見据えて。真剣なまなざしで、キノピオは言った。

「ワリオさん・ワルイージさんのお二人にも、ご出席していただきたいのです!」

 一瞬、沈黙。
「「……えええええ!!」」
「ひゃっ」
 止まった時が突然動き出したかのように、兄弟は同時に驚きの叫びを放った。キノピオがひっくり返る。
「な、何であの二人まで! てか、直接言えよ!」
「そ、その通りですよね。ですが彼らはお二人も知っての通り、問題の絶えない暴れん坊ですから、その。ええっと」
「……要するに怖いんだね。だからボクたちから伝言してほしいってこと?」
 苦笑いと共にそう聞き返したルイージの表情を伺いながら、キノピオは力なく「……ハイ」と頷いた。
 あーあ、と、マリオは深いため息をついて立ち上がる。
「分かったよ、オレたちから説明してやる」
 その答えや彼の行動が。つまり、自らの自分勝手な願いを聞き入れてくれたんだと理解して。キノピオの表情が輝いた。
「ありがとうございます!」
「心配すんな、目立ちたがりのあいつらの事だ。喜んで行ってくれるさ。さ、行こう」
「う、うん」
 マリオに促されて、ルイージも慌てて立ち上がった。

 キノコ城下町の裏通りに、人知れずそのあばら家はあった。

「おお! ついにオレたちにも国の声がかかるとは!」
「やったぜ兄貴! これでオレたちもヒーローだ!」
 思った通り。ワリオ・ワルイージ両名は、二人の言葉を聞くなり、手を取り合って大いに喜んだ。想像通りの反応を見て、マリオもルイージも思わず苦笑いを漏らす。
「感謝しろよ? キノピオが怖がるから、代わりにオレたちが伝言しに来たんだからな」
「はんっ。やっぱキノピオどもは臆病だなー。で、そんな臆病者の言いなりになってるお前らもお前らじゃねえのか?」
 勝ち誇ったようにふんぞり返ってそう言うワリオ。兄弟がむっと顔をしかめた。
「キノピオのことを悪く言わないでよ」
「けっ、事実だろうがよ。ま、お前らがど~してもって言うなら、堅苦しい挨拶とかもやってもいいんだぜぇ? ヒッヒッヒ」
 ワルイージもけらけらと笑っている。
 マリオらにとって正直気分がよくない事この上ないのだが、キノピオとの約束がある。これ以上の押し問答の上、へそを曲げられて「出ない」と言われては困るのだ。
 仕方なく、マリオは二人の顔をじっと見据えた。
「頼むから、出てくれよ」
「……ほっほーう。お前もなかなか礼儀正しくなったじゃねーの」 
 満足そうにジグザグ髭を撫でながらそう言って、ワリオは勢いよく、今までふんぞり返っていたソファーから勢いよく立ちあがった。
「気に入ったー!! 降臨祭だかチンゲンサイだか知らんが、今日からスーパースターの座交代だって世界中に知らしめてやろうじゃねえか! 行くぞー!!」
「おう、兄貴ー!!」
「なっ、おい!!」
 マリオが引きとめるのに耳も貸さず、意地の悪さに秀でた兄弟たちは、勢いよくあばら家を飛び出して行った。
「……祭は夜からだっつーの」
「ま、まあやる気は有り余ってるみたいだし。出てくれてよかったね」
「正直、予想以上の食いつきの良さだったけどな」
 お互い顔を見合わせ、苦笑い。
「さあ、ボクたちも夜に備えて準備しなくっちゃ! いったん帰ろう」
「そうだな」
 頷きあい、兄弟は誰もいなくなったあばら家を後にした。

 祭は、今夜。
 さあ、一体何が起こる?
 

 

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