Rival of fate

「マリオー!! くぉらいつまで寝てやがんだー! 起きやがれー!!」

 気持ちのいい朝は、いきなりのダミ声でぶち破られた。
 朝食づくりの手を止め、ボクは嫌々ながらもドアを開ける。

「あぁもう、朝からなんなのさ! 兄さん、冒険から帰って来たばかりなんだから……」

 そこで、ボクは言いかけていた文句を止める。
 突然の来客の正体は、兄さんにいつもちょっかいを出すトラブルメーカー・ワリオ。
 そんな彼が、知らない奴を隣に連れていたから。

 そう。
 それが、ボクとあいつとの運命の出会い(?)だったんだ。

 

「なんだ、てめえかよ」
「……あの。どちら様?」

 ボクの顔を見たとたん露骨にがっかりしたワリオには目もくれず、ボクはワリオの隣で腕を組んで立っている彼に、そう尋ねずにはいられなかった。
 普段街で見かけない人だから、というわけじゃない。あえて言うなら、その格好や体格が気になっただけだ。

 細長くてひょろっとした体形に、ボクより大分高い身長。紫色のオーバーオール。赤い鼻。サンダーみたいにひん曲がった口元のヒゲ。ワリオそっくりの目つきの悪い表情。
 どこもかしこも特徴だらけだけど、そのどれよりも目を引くのは……頭にかぶった紫色の帽子。そこに縫い付けられた、『L』を逆さまにしたようなマークだった。

 思わずその帽子ばかりをまじまじと見てしまうボクの顔を、どこか疑わしげにじろじろ見まわしながら。そいつは、ワリオに尋ねた。

「おいおい、冗談きついぜ兄貴。こんな弱っちそうな奴がお前の運命のライバルだって言うのかよ?」
「んな訳ねぇだろ。あいつとこのヘタレを一緒にすんな。まだ会ってもいねぇのによ」
「あ、兄貴だって!? ワリオの弟なの?」

 聞き捨てならないセリフを聞いて、ボクはびっくり仰天した。
 王国主催の大会なんかで、何度かワリオのいたずらに頭を悩まされてたボクたちだけど、いつもワリオは単独で(時々クッパも一緒になるけど)行動してたし、そんな話誰からも聞いた事はない。当然、兄さんだってその事は知らないはずだ。
 驚きとか好奇心とか、いろんな感情がごっちゃになって目を瞬かせるボクに向かって、ワリオは豪快にげらげらと笑った。

「がっはっは、違ぇんだなこれが! オレ様にもともと兄弟なんぞいねぇ」

 思いっきり笑い飛ばされて腹の立つところだが、彼の素性は気になる所だったので、とりあえずボクはむすっと顔をむくれさせる程度で、ささやかな反抗をしておく。
 そんなボクの内心を知ってか知らずか、ワリオは右手の親指を立てる仕草をし、隣に立つ彼の胸をそれで小突きながら、言った。

「こいつはワルイージってんだ。ま、オレ様の可愛い弟分ってとこだ、な?」
「おうともさ兄貴!」
「弟分……」

 思わず復唱していた。
 ボクと兄さんみたいな血の繋がりはないけれど、そういう不思議な関係もあるんだな。と、ちょっぴりボクは不思議な気分になる。

「今日はお前らにこいつを紹介しに来てやったのさ。とっととマリオを起こして来やがれ」
「もう起きたぞ」

 いきなり後ろから、とっても不機嫌そうな声が聞こえてきて。
 振り向くと、赤いパジャマとナイトキャップ姿で、寝ぼけ眼をこすりながら二人の顔を睨みつける兄さんがいた。

「おはよう、兄さん」
「ああ、おはよう。なんかうるさいと思ってたら、朝っぱらから何やってんだお前ら。なんか見慣れない奴がいるし」
「おう、やっと起きてきやがったなマリオ!」

 お目当ての兄さんの姿を見つけた途端に、あっという間にワリオの表情は明るくなった。何というか、やっぱりわかりやすい奴。
 ワルイージ、っていったっけ。そいつを突き飛ばすように前のほうに押しやって、ワリオは言った。

「お前らにはもったいない男だが、紹介してやるぜ。こいつがオレ様のワルイージさ!」
「やめろよ兄貴ぃ。照れるじゃねぇか」
「は? あ、兄貴?」
「あ。ち、違うよ兄さん」
 
 兄貴、という単語を聞いて、予想通り固まる兄さんを見て、慌ててボクはフォローする。

「このふたりは本当の兄弟じゃなくて、兄貴分と弟分って関係なんだってさ」
「なんだ、そうなのか。あーびっくりした」
「あぁん?」
「おいおい、何だぁその反応は?」

 ボクの説明を聞いて、ほっと胸をなでおろす兄さんに向かって。ふたりは、思いっきり不機嫌そうな顔をした。
 何だよ、と、兄さんがふたりのいかつい顔を睨み返す。

「何か文句でもあるのか?」
「あー大ありさ。実の兄弟だからっていい気になんなよ、てめえ」
「そうだぞ。今や、兄貴は本当の兄貴以上に『兄貴』な奴なんだからよ!」

 言い回しがごっちゃでよく分からないけど。どうやら、血の繋がりはなくとも彼にとって、ワリオは本当の兄と同等の関係にある、と言いたいようだ。
 兄さんが何か言うより先に。

「なんだか素敵な組み合わせだね」

 ボクは思わずそう言ってた。
 目を見開く兄さん。にんまりと笑うワリオたち。

「おぉ? 良く分かってんじゃねぇかてめえ。よーし、気にいった! おい、確かルイージとか言ったよな?」
「う、うん。そうだけど」

 兄さんの影に隠れられがちなボクの名前を、最初からちゃんと覚えられてるのは、ここ最近では結構貴重なことだ。でも、相手が相手なので素直に喜べなくて、ボクはただ戸惑いがちに小さく頷くしか出来なかった。
 そんなボクに向かって、人差し指をびしっと突きつけて。ワルイージはこう堂々と言い放った。 

「てめえは今日から俺様のライバルだ!!」
「……へ?」
「はぁ!? いきなり何を言うんだっ」

 いきなりそう宣言されて、ボクは思わず固まってしまう。
 驚きのあまりに何も言えないボクに代わって、兄さんが食ってかかる。
 でも、それにもワルイージは動じなかった。

「兄貴から聞いてるぜ。てめえ、兄貴の影に隠れていっつも忘れられてるんだってなぁ?」
「う。そ、それは……」
「スーパースターの弟としてそいつはまずい。とすれば! この平和ボケした町にとっては新顔である俺様が、てめえの近くにいればだな。少しはてめえの存在感も引き立つってもんだろうが」
「得意げな顔して何を抜かす。結局自分が目立ちたいだけだろ」

 小難しい事をぺらぺら語るワルイージ。そんな言葉を、ばっさりと一蹴する兄さん。
 そこでも、ふたりは負けずに得意げに胸を張ってふんぞり返る。
 いっそ清々しいまでの開き直りっぷりだったのを、ボクはよぉく覚えてる。

「おう、そうともさ。目立ちたくて何が悪い!」
「そこで、だ。今度、ピーチ姫さんがテニス大会開くらしいじゃねえか? 」

 ああそういえば、と、ボクたちは、先日ピーチ姫からもらった手紙の内容を思い出す。
 スポーツ万能の兄さんと、兄さんと一緒に何度かプレーした事があるボクが出場してくれるなら、きっといい試合になってくれるでしょう、なんて、すっごく期待されてる事が分かる手紙だった。
 冒険以外で体を動かせることが嬉しいみたいで、兄さんは快く出場を決めた。表向きはサラサランドとの友好試合になってるってことで、デイジーも特別選手として来るらしい、とも聞いてたから、ボクもひそかに楽しみにしていたのだ。
 そこで、はっとボクは思い当たる。
 ここで今この話題が出るってことは、まさか。

「ま、まさか二人で出場するつもり?」
「その通り! こいつの初舞台にはちょうどいいだろ?」
「大舞台で、兄貴と一緒にてめえらをケチョンケチョンのボッコボコに打ち負かしてやるからなぁ?」

 覚悟しとけよ、ヒッヒッヒ!
 そう言い残して、ふたりはくるりと背を向け、肩を組んで歩き去ってしまった。

「……あんなのがライバルだなんて、そんなぁ」
「あいつら、テニスのルール知ってるのか……?」

 同時に、ボクらは思わず呟いていた。
 ピーチ姫に失礼なことしないかなぁ、とか、デイジーのこと怒らせちゃわないかなぁ、とか、嫌な予感ばかりが頭をよぎる。
 でも、とりあえずは。

「冒険から帰る楽しみが増えたな」
「城下町が賑やかになりそうだね」

 突然訪れた新しい出会いを、喜ぶ事にしておいた。

 

 これが、ボクとあいつの運命的な出会い。
 その日から、ボクとあいつは事あるごとに色々衝突することになるのだけれど。

 それは、まだもう少し未来の話。

 

 

 

というわけで、うんめいライバルズの出会いのお話でした。
きっかけは絶対ワリオさんだと思うんですよね。だからこそ、初対面はこれくらい唐突でもいいと思う!

 

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