夏美殿の名前がつけられた、あの城から逃げ出す時。
「夏美の事は、俺に任せろ」
あいつが我輩にそう小さく囁いたのを、みんなは知らない。
夏美殿の『思い出』から生まれた、深海の街。
そこにあるデパートで、兵器制作その他をまるっとクルルに任せ、みんなと遊び呆けている間も。
我輩の頭から、あいつや夏美殿の事が離れた事は、一度もなかった。
我輩を「つまんない」と一蹴してくれやがった時も、メイドさんっぽい女の子に守られる姿をナツミ城で少しだけ見かけたときも、一見わがままなケロン人(いや、ホントはマロン人って言うんだっけ?)のガキにしか見えなかった王子にいいように使われていると思うと、とても許せない。
あいつや他の小隊員で『遊んで』いいのは、我輩だけ。他の誰にも触らせたくない。
何より、あんなどこの馬の骨ともしれない異星人(我輩たちもそうなんだけどね?)になんか、指一本だって触らせたくなかった。
それなのに、あいつは我輩を置いて、夏美殿やあのガキのすぐ側にいる。
ギロロは何も知らない。我輩が、どんな思いでここまで逃げてきたかなんて。
我輩の気持ちも何一つ知らずに、海の底で何やってるんだか!
どこかで馬鹿面下げて「すまん」なんて言ってくれやがったら、ゲンコツのひとつでもくれてやろうか、なんて。
甘い考えを胸に秘め、我輩は出撃の時を待っていた。
それなのに。
城門の前で、再開したあいつは。
「無事だったみたい……ではありますが……その方たちは……?」
「ここを通すわけにはいかん」
ああ、やっぱり。
あの時、無理やりにでもあいつの手を引いていれば!
隊長命令でも何でも使って、あいつの無茶を止められていれば!
俺に任せろ、なんてかっこいい事言っといて、全っ然守れてないじゃんか!
我輩がどんな気持ちで、お前に任せたかなんて知らないくせに。
我輩たちの事も、夏美殿の事も綺麗さっぱり忘れて、洗脳なんかされてんじゃねえよ!
こんなことで忘れるんだったら、我輩にだって希望があったみたいじゃないか。
我輩だって、気持ちは同じだったんだから。
普段、我輩を『ボケガエル』と呼び、熾烈なお仕置きをくれる(悪いのはほとんど我輩でありますが)中でも、宇宙の果てからやって来た我輩やギロロを『家族』として認めてくれている事は、我輩はよく知ってる。
だからこそ、何度か我輩たちと共に戦ってくれたこともあった。
その心の強さに、そして時折見せてくれる笑顔に、我輩は惹かれた。
だから。
日向家の庭で、仲良く(?)焼き芋を分け合って食べるその姿を見るたび、胸がちくちくしたから。
我輩の命令さえ放り出して、最優先で夏美殿を守ろうとするギロロの姿があったから、我輩は無駄な希望を抱くのをやめた。
あほらしい侵略作戦ばっかりして、度々ペコポンを危機に陥れようとしている我輩より、いつも傍にいて守ってくれるギロロを選ぶことぐらい、分かり切っていたから。
そんなこと、我輩だけ名前で呼んでくれない事からして、明らかな事で。
なのに、こんなの見ちゃったら。
我輩の決意なんか、何の力もなかったんだって、思い知る。
(これが終わったら、1度くらいは我輩の事、名前で呼んでくれるでありますかな……)
まあ、きっと「調子に乗んじゃないわよ!」なんて、一発殴られるかもしれないでありますが。
もしも、そう、もしもそれが叶ったら。
我輩も、ちょっとはいい夢を見ててもいい?
ちょっとだけ、夏美殿の事『借りても』、いい……?
邪魔な魚っぽい化け物を、冬樹殿から返してもらったケロボールで吹っ飛ばして。
「ギロロのくせに、生意気なんだよ」
後ろでフライパンを構える冬樹殿に聞こえないように、喉の奥で小さく呟いて。
我輩は、ケロボールをギロロに向けた。
end.
ギロ夏←ケロも嫌いじゃないぜ? 的な。暗くてサーセンorz
某動画サイトで劇場版2を見返していて、ふっとこんな話が思いついてしまいました。w
門の前でギロロ目がけてケロボールを構えたケロロの気持ちは、こんな感じだったのかなあ~なんて。
どうでもいいけど、メールの声優さんって今の冬樹をやってる人なんですね。
メールとマールのコンビは観てて癒されました。