いつものように壇上でのトロフィー受け渡し役を済ませ、軽やかにバックヤードへ続く階段を下りていたのは、スーパースターと共に生まれ、彼と共に名声を築き上げてきた男、ルイージその人。
そこへ。
「ルイージ!!」
「うわっ」
ものすごい剣幕でこちらに詰め寄ってくるのは、誰もが知る世界のスーパースターにして、ルイージが誰よりも慕う双子の兄、マリオその人で。
普段の彼とはまるで違うその様子にたじろぎながらも、ルイージはとりあえずいつも通りの温和な笑みを浮かべて見せた。
「どうしたの? そんな切羽詰まった顔して」
「ルイージ! さっきのあれ、どういう事だよ!」
「え? ……あれって何?」
ひょっとしてさっきの授賞式で、何かまずい事でも言ってしまったのだろうか。それともトーナメント戦で負けた事を責めているのだろうか。
ネガティブな想像ばかりが頭をよぎり、冷や汗だらけになるルイージに向かって、マリオが言ったのは。
「お前、ヘイホーの素顔、見ちまったのか!?」
「ああ、その事か……」
がっくりと脱力した。まさかそんな理由で、そうまでして自分に突っかかって来るとは。
確かについ先ほどの授賞式で、ちょっとしたトラブルは起こっていた。
今回のトーナメントの優勝者は、赤いフードと白い仮面がトレードマークの、クッパ軍団の愛すべき(?)マスコット・ヘイホーだった。小さい体ゆえの身軽さとテクニックを駆使し、クッパはもちろん自分や兄さえも打ち破り、優勝を果たしたのだった。
そして、つい先ほどの授賞式で、その事件は起こった。
壇上に上がる際に階段でつまづき、その拍子に顔にいつもつけている白い仮面が外れてしまったのだ。そしてその瞬間、ルイージはヘイホーの真正面で腰を抜かしていた。
つまり彼は、仮面に秘められたヘイホーの素顔を、その目で見ているという事だ。
観客らがいる位置からは、遠くて鮮明には見えていないはずだ。そして出場者内でも、ルイージ以外の誰も壇上にはあがっていないのだから、顔を間近で見られたのはルイージのみ。
それを分かっていて、マリオは今こうしてルイージに詰め寄っているのだ。
「見たんだろ? 教えてくれよ! なあなあ、どんな顔だった?」
「うーん、確かに見たんだけど……」
困ったように頬を指でかいて、苦笑いしながらルイージは言った。
「ボクからは教えられないよ」
「ええー、何で!」
マリオがふてくされるように頬を膨らませる。「別に意地悪してるわけじゃないよ」と前置きして、ルイージは答えた。
「授賞式の後、ヘイホーに頼まれたんだよ」
『ボクは恥ずかしいのデス。これは内緒でお願いしますデス』
小柄な体をさらに小さくし、もじもじと身をよじらせながら、ヘイホーはルイージにそう言った。きっと仮面の下の顔は、耳まで真っ赤になっている事だろう。
「兄さんだって、隠し事がみんなにばらされちゃったら嫌だろ?」
「そりゃそうだけど……」
納得いかない、という顔をしている。兄さんらしいなあ、とルイージは思った。いつだって、自分だけ知らない事がある、ということが嫌いで、どんな手を使ってでも知りたがるのだ。かつて、そうやって自分が内緒で書いていた日記も盗み読みされた事がある。
でも、こればっかりはいくらマリオの頼みでも聞けない。これは不慮の事故。そして、ヘイホーのたっての願いなのだから。
そう割り切って。ルイージは、不意にマリオの手を取った。
「それより、練習しに行こうよ。今度こそ優勝しよう!」
「あ、ああ」
自分たちのラケットを取りに、二人は手をつないで控室へ戻って行く。
(……それに)
兄の手を引きながら、弟はひっそりと心の中で呟いた。
(あんな可愛い顔、そうおいそれと誰かに見せられやしないもの)
マリオに見られないように、小さくルイージは笑った。
これは、自分だけの秘密。
その数十分後。
「ねえねえ、教えてよ~!!」
「い、いくらデイジーでも教えられないってば!」
「罪な奴だなあ、ヘイホー」
「恥ずかしいのデス~」
練習用コートで、雛菊の名を持つ快活な姫君に詰め寄られるルイージと。
マリオにからかわれ、コートの隅でまたしても恥ずかしそうに身をよじらせるヘイホーの姿があったのは、また別の話。
おわり。
素顔がどんな顔だったかは神とルイージのみぞが知る。
マリオテニスGCは未プレイなのですが、某笑顔動画で各キャラごとのEDをまとめたものを見て、ひらめいたお話です。
きっとマリオとデイジー以外にも、ルイージはさまざまな選手らに詰め寄られた事でしょう。w
ちなみにヘイホーの喋り方は完全にオリジナルです。てか喋れるのか?