スペシャル・アタック

 事の始まりは、キングケロシップの航行テスト中。
 移動範囲の確認をしていた際、うっかり強い敵のいる海域に迷い込んでしまったことだった。
 すぐに終わらせてやろうと息巻く5人だったが、すぐにその考えの浅はかさを思い知る。
 敵が放つ一発一発がかなり重い。こちらの攻撃は通じてはいるものの、体力がそこらの敵とは桁違いなためになかなか倒れてくれない。
 そして、詠唱を阻止する間もなく、空を飛ぶいかにも魔法的な姿をした魔物が放った魔法は、一気に小隊らの体力を削り。
「デモンズビートぉーっ!!」
 タママがどうにか魔法的な魔物を叩き落とした時には、5人ともすっかり疲れ果てていた。
「ようやく1体倒せたでありますな。さすがであります」
「えへへ、ありがとですぅ」
「でも、この状況はかなりゲロヤバー……ねー、やっぱ逃げたほうがよくない?」
 息を切らしながら何とも頼りない提案をするのは、白い腹と黄色い軍帽に星のマークが輝く、我らが緑の小隊長・ケロロ軍曹。
 その言葉に、「何を言う!」と、ギロロが食ってかかった。
「戦闘開始直後に逃げようとしたものの、瞬時に間を詰められて失敗したのを忘れたのか貴様は!」
「左様。ここは何としても退けなければいかんでござる!」
 緑の隊長の言葉をばっさり一蹴したふたりの幼馴染も、体中に傷を負った痛々しい姿で、荒い息をおして自分の武器をぎゅっと握りしめていた。
「そういやぁ、隊長ォ」
 後ろで回復魔法を唱え続けていたクルルが、こんな時でも相変わらずの不敵な笑みを浮かべ、同じく回復魔法をかけようとしていたケロロに声をかける。
「そろそろ隊長のブレイジングライズ、使えるみたいだぜぇ」
「おお、本当でありますか? おっしゃあ、出力全開ー!!」
 黄色い参謀の言葉に、ぱっと顔を輝かせたケロロは、早速この世界特有の特殊能力・想いの力が成す技、ブレイジングライズを発動させた。
 見えざる力が解放され、体に金色のベールをまとった姿をしたケロロは。
 何を思ったか、今自分がしようとしていた回復魔法の詠唱を中断し、幼馴染と突撃兵が戦う最前線へまっすぐ向かっていくではないか!
 思いがけない行動に、4人の部下らはあんぐりと口をあけて驚いた。
「あ? 隊長ォ!?」
「軍曹さんっ!? 何で来たですぅ!?」
「隊長殿、危険でござる!! お下がりを!!」
「回復はどうした!! 早くせんと俺たちももたんぞ!!」
「そんなのもういらないでありますよ! すぐ片付けちゃうであります!!」
「馬鹿を言え!! いくらブレイジングライズが発動していると言え……」
 ギロロが、傷ついた体をおして無謀にも敵に突撃していく緑の幼馴染を、必死に止めようとした時。
 彼の体が、今までとはまるで違う桃色のオーラに身を包んで、不意に宙に浮いて。
 瞬く間に目にもとまらぬ速さで動き出した彼の体は、彼自身のトレードマークである星型の軌跡を描いていた。

「超・必殺! ファイナル・ケロン・スター!!」

 勢いよく振りおろしたその剣は、敵の脳天を正確に貫いた。
 金色に輝く、大きな星型と共に。

 やがて、ケロロがデッキに着地したとき、目の前の敵は跡形もなく姿を消していた。
 しばらくの沈黙ののち、ケロロは4人の部下が呆然と立ち尽くしているその方向を、くるりと振り返った。
「……あ゛~、今のはかなりヤヴァかったでありますな~。命拾いしちゃったよーマジで!」
「……な、何が『命拾いした』だっ!!」
「ゲロ!?」
 時が動き出したように、途端に放たれたギロロの怒鳴り声に、ケロロは思わず飛び上がる。
 他の3人も、彼に同意するように次々とケロロに食ってかかった。
「ククッ……こいつぁ驚いたぜぇ。すっげえ隠し玉持ってんじゃねぇか、隊長ォ」
「そうでござる、隊長殿! 今使われたその技は、いったい何でござるか!?」
「そうですよぅ! あんなすっごい技が使えるなんて、ボクたち知らなかったですぅ!」
「ゲロ? 何って、超・必殺技でありますよ。こないだ、モア殿から聞いたでありましょう?」
 ああそういえば、と、小隊員は数日前の『星の断罪者』の言葉を思い出す。
 ブレイジングライズ中にのみ使うことが出来る、想いの力を最大まで解放した、その名前の通りの必殺攻撃。
「ち、ちょーひっさつ……だと?」
「ついさっきまで弱い敵相手だったし、みんなあまり気合い的なのたまってなかったっしょ? やっと試せたでありますよー!」
「クークックッ、まあそりゃあなあ。しっかし、ダメージ半端ねぇなあ。予想外のデータが取れちまったぜぇ」
「そうでござるな。正直驚いたでござる」
「さすがボクの軍曹さん! すーっごくかっこよかったですぅ!」
 思わぬ賞賛を浴び、自然とケロロの目尻が下がる。
「それほどでもあるでありますよー、ゲロゲロリ」
「調子に乗るなっ!!」
 すかさずギロロの鉄拳制裁が入った。
「まず俺たちを回復しろ! さっきのように強い敵に囲まれでもしたらどうする!」
「そ、そうでありましたな。さっさとやるでありますよ、クルルー」
「クックック……了~解」
 傷ついた自分らの体を癒すために、唯一の回復手段を持つ小隊長と作戦参謀は、それぞれの隊員らのところへ散って行った。

「これぐらいでいいでありますか?」
「ああ、助かる。……それにしても、さっきは本当に驚いたぞ」
 ケロロの回復魔法・ライトヒールを受け、大概の傷が治ったギロロは立ち上がる。
 その口から出た言葉は、やはり先程の戦闘を思い出すそのセリフ。普段のケロロのだらけきった姿をよく知っているだけに、鮮やかに敵を薙ぎ倒した先程の戦闘は、はっきり彼の印象に残ったらしい。
「ゲロゲロリ。これが我輩の実力であります。まあ、あれはこの世界だけのものだけどねー」
「そんなことはないだろう」
「え。なんで?」
「貴様が本気を出せば、例えこの世界であろうとなかろうと、あんな雑兵を蹴散らすのはそう難しい事ではないはずだ」
 ギロロの確信に満ちたその言葉を、ケロロは黙って聞いていた。
 それはまだ地球にやって来る前。彼やドロロと共に戦場を駆け抜けていた、あの時代。
「……こんの赤ダルマは、嫌な事思い出させてくれちゃってもー」
「それは、すまん」
「こんな物騒な技、元の世界でそうおいそれと使うわけにはいかないっしょ。我輩、夏美殿に殺されちゃうであります」
 おー怖っ! と、わざとらしく肩を震わせる仕草をして見せる。
 そして、不意に。
 ヒールを唱えた緑色の手が、彼の顔に斜めに入った、大きな古傷に添えられた。
「何だ? 回復はもう十分……」
「この傷は、我輩やクルルの力でも、癒せないんでありますな」
 思わずギロロは言葉を失う。
 その傷は、かつて彼がケロロを文字通り身を挺して守った際に出来たもの。少なからず責任を感じていたケロロは、戦闘のたびに魔法で治せないかどうか試していた。クルルにもギブ&テイクの条件を持ちかけ、協力してもらった。
 しかしそれは出来なかった。この世界に迷い込んだときに、彼自身のデータとして登録でもされてしまったのだろう、とクルルは言った。ゲームの世界らしい話だった。
「なんであの後、ちゃんとした治療を受けなかったでありますか? ケロン星の医療技術なら、綺麗さっぱり治っちゃうはずなのに」
「傷は戦士の誇りだからだ」
 迷うことなくギロロは答えた。
「お前は貴重な素質を持つ者。そんな重要人物を守る事が出来たのは、戦士として喜ばしい事だろう?」
「なーにカッコつけてんの。守られる側としては、そんな傷しょっちゅう受けられてちゃ困るでありますよ」
「……ぐっ」
「だ・か・ら」
 言葉に詰まるギロロに向かって、ちっちっち、と指を振り、ギロロの顔をずいっと覗き込んで。
 目を細めて意地の悪い笑顔を作り、ケロロは言った。
「今度の戦闘では、ギロロの超・必殺技、見たいでありますなあ」
「え。俺か?」
「我輩が出来ちゃったんだから、ギロロにだって出来るっしょ?」
 その、一見やや失礼な言葉の裏に、彼の自分に対する絶大な信頼を感じて。
 思わず、ギロロの顔に笑みがこぼれた。
「そうだな。試してみるか」
「ヤッフー! さっすがギロロ!」
「軍曹さぁーん!」
 嬉しさ余ってバンザイをしたケロロの横っ腹に、いきなり黒い影が思いっきり抱きついて来て。
 重力に負け、思わずケロロは「ぐはっ!?」と倒れこみ、自分に飛びついて来た可愛らしい尻尾付きの体を助け起こした。
「な、何でありますかタママ二等? ……って! なんであーた、まだ傷だらけなの! クルル曹長に回復してもらってたんじゃなかったでありますか?」
「カレー先輩の使う回復魔法なんて、なーんか嫌なんですよぅ。軍曹さんの愛が欲しいんですぅ! ドロ沼先輩が回復してもらってる間に逃げてきちゃいましたぁ。ねーねー、ボクにもライトヒールお願いしますぅ」
 つぶらな瞳を潤ませて、ケロロにおねだり攻撃を迫るタママ。「えー、どうしよっかなあ」と、困ったようにケロロが頭をかくその傍らで、ギロロは目を吊り上げる。
「何下らんわがままを言っとるんだ! お前は最前線で戦っていたんだから、俺たちよりダメージが多いだろう! ケロロよりクルルのほうが回復量の多い魔法が使えるんだからそっちへ行かんか!」
「嫌ですよぅ! いくら幼馴染だからって、伍長さんばっかり軍曹さんといちゃつくのはこのボクが許さないですぅ」
「た、タママ二等!?」
「い、いちゃついてなんかおらんわッ!!」
 盛大に顔を真っ赤にして、誰が見ても分かる照れ方をする2人の上司を、タママは「これでどうですぅ?」と言わんばかりの自信満々な笑顔で見つめた。
 どうやら根負けしたらしい。熱がまだ抜けきらない赤い顔をがっくりと落として、ケロロは言った。
「もー、しょうがない子でありますなあ。た・だ・し! 今ギロロが言った通り、我輩の回復魔法はちょっぴり弱いんだから、後でちゃんと自分でチャクラしとくでありますよ!」
「わーい! 了解ですぅ、軍曹さん!」
「はいはい、動いちゃダミだよー」
 詠唱を始めるケロロと、嬉々として彼の魔法を待って目を閉じるタママを横目に見ながら、ギロロはぼんやりと考えた。

 お前の言うとおりだ。
 お前を守る為とはいえ、俺たちばかりが傷ついてばかりいるのは、俺としても不甲斐ない。
 ならば! 傷を最小限に抑える為、もしくは傷つかない為に、今よりももっと強くならなければ。
 幸いにも、俺たちにはモアに教わった『超・必殺技』という切り札がある。
 ケロロのあの姿を見た今ならば、俺たち以外の隊員の士気も上がっているはず。今よりもっと技に磨きをかけようとするだろう。

 俺たちの力は、いつだってお前の為に。

「俺様とドロロ先輩の回復、終わったぜぇ」
「かたじけないでござる、クルル殿」
「みんな、もう体力は大丈夫でありますか?」
「無論だ」
「思う存分暴れられるですぅ!」

 この技で。
 俺たちはこの世界の未来を、切り開いて見せようではないか。

「全員、次の敵襲に備えるであります!」
『了解!!』

 

End.

 

記念すべき(?)当サイト1作目のケロロ作品です。何故RPGネタにした自分?;
1番最初に超・必殺技が発動出来た時、他のメンバーはびっくりしただろうなあ~と思います。
しかもそれがケロロだったら余計に驚いちゃうと思います。
普段のぐーたらさんとは似ても似つかない勇士に思わず目を疑っちゃうほどに。w

超・必殺技は、小隊だけじゃなく敵側のもかっこいいですよね。個人的には3姉妹のが好きです。

 

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